乾癬とは?
乾癬(Psoriasis)は、皮膚の疾患であり、赤くなり、盛り上がった部位に白くカサカサした鱗屑(りんせつ)が形成される状態を指します。鱗屑は、古い皮膚細胞が過度に角化して剥がれる現象であり、乾癬の主要な特徴の一つです。この現象を無理に取り除くと、点状の出血が見られることがあり、これはアウスピッツ現象(Auspitz phenomenon)として知られています。
通常、皮膚のターンオーバー(生まれ変わるまでの期間)は約45日ですが、乾癬の場合、この過程が4~7日ほどに短縮され、皮膚が異常に増殖します。乾癬は身体のさまざまな部位に現れる可能性がありますが、髪の生え際、頭皮、膝、肘など外部からの刺激が多い箇所に多く見られます。また、かゆみが伴うことがあり、掻いてしまうと症状が悪化することがあります。
乾癬には複数のタイプが存在しますが、最も一般的なのは尋常性乾癬で、皮膚の赤みが白い角質層で覆われる状態です。乾癬患者の中で、約2割が爪に異常や変形が見られ、また関節炎を併発することがあります。乾癬は日本人の中で比較的一般的で、特に中年の男性に多く見られます。
目次
乾癬の初期症状
乾癬の初期症状は、一般的に赤みとかゆみが現れます。ほとんどの患者さんに共通して見られる症状であり、これらの初期症状はしばしば湿疹と混同されます。普通の人が見たり触れたりしても、乾癬という疾患とは容易に区別できないことがあります。乾癬の診断には、問診や視診に加えて、皮膚生検などの検査が行われることが一般的です。
乾癬が進行すると、症状は次第に境界がはっきりして皮膚が盛り上がり、かさかさとした白い鱗屑(りんせつ)が現れることがあります。湿疹の場合、皮膚炎やかぶれが生じ、水ぶくれやただれ、化膿してじゅくじゅくすることもあります。
陰部の乾癬
陰部に乾癬が現れることもありますが、この部位は湿気が多いため、かぶれや白癬菌の感染を起こすことがあるため、乾癬よりもこれらの疾患が疑われることがあります。陰部に症状が現れる場合、適切な診断と治療を受けるために医師に相談することが大切です。
乾癬の原因
乾癬の原因は現在も正確には解明されていませんが、複数の要因が関与していると考えられています。
以下は乾癬の原因として考えられる要因です。
遺伝的要因
家族歴に乾癬を持つ人がいると、遺伝的な要因が関与している可能性が高まります。特定の遺伝子が乾癬の発症に関与していることが示唆されています。
免疫異常
乾癬の免疫システムが過剰に反応し、正常な皮膚細胞の増殖を促進することが原因の一つと考えられています。この免疫反応の異常が皮膚の炎症と鱗屑(りんせつ)の形成につながります。
環境要因
物理的な刺激や外傷、感染症、薬物の使用、ストレスなど、外部からの刺激や環境要因が乾癬の発症や悪化に影響を与えることがあります。
生活習慣
生活習慣による要因も乾癲に影響を与えると考えられています。例えば、過度なストレス、不健康な食事、睡眠不足、喫煙などが症状を悪化させる可能性があります。
乾癬の症状は一般的に波があり、悪化と改善が繰り返されることがあります。また、かゆみや皮膚のこすりつけなどの刺激は症状を悪化させる要因となります。乾燥した環境や不適切な保湿も症状を悪化させる可能性があります。生活習慣やストレス管理に注意することが、乾癬の管理に役立つことがあります。
乾癬の診断
いくつかの特徴的な現象を確認することが重要です。例えば、アウスピッツ現象は、皮膚の表面にある厚い鱗屑(かさぶた)を剥がすと、小さな出血点が見られる現象を指します。また、乾癬患者さんの皮膚は、物理的な刺激や擦り傷に対して非常に敏感で、新たな病変が発生しやすい傾向があります。これをケブネル現象と呼びます。
乾癬の診断は、これらの現象や皮膚の外観に基づいて行われますが、他の皮膚疾患との鑑別も必要です。そのため、必要に応じて皮膚の組織を顕微鏡で詳しく調べる組織学的検査や、血液検査なども行われることがあります。
また、乾癬と関節炎が同時に存在する場合、関節リウマチとの区別が求められます。この場合、関節のX線検査や超音波検査など、さまざまな診断方法が用いられることがあります。
乾癬の治療
乾癬の治療には、いくつかのアプローチが存在します。それらは、塗り薬、飲み薬、注射、および光線療法に分類することができます。
◎塗り薬
塗り薬としては、活性ビタミンD3製剤(オキサロール、ドボネックス、ボンアルファハイ等)やステロイド薬が一般的に用いられます。これらの薬は、ステロイドが炎症を抑える助けとなり、ビタミンD3が皮膚の新陳代謝を調整する助けとなるためです。最近では、これら二つの成分を合わせた製剤(マーデュオックス、ドボベット)も利用されており、使用が容易になっています。
特に頭皮乾癬の治療には、特定のシャンプー(コムクロシャンプー)が利用されることがあります。強いステロイド成分を含んでおり、頭皮につけて15分で洗い流すタイプで利用が簡単で、副作用のリスクも低減すると考えられています。
◎飲み薬
塗り薬だけでの治療が困難な場合、飲み薬が選択されることもあります。例えば、レチノイド製剤(チガゾン)、PDE4阻害剤(オテズラ)、免疫抑制剤(ネオーラル)などが、症状の改善を目指して用いられます。それぞれの薬剤は、乾癬の症状を抑え、皮膚の状態を改善する助けとなる可能性があります。
◎注射、および光線療法
乾癬の病変は時に強い痒みを伴い、患者さんは掻いてしまうことがあります。これにより、病変が広がる可能性があるため、かゆみを和らげるための薬剤が併用されることがあります。
もし塗り薬や飲み薬による治療が効果を示さない、または病変が広範囲にわたっている場合、紫外線による光線療法が過剰な免疫反応を抑えることでも乾癬の症状に良い影響をもたらすことが知られており、治療の選択肢の一つです。紫外線でよくなるため、夏に症状が改善することもあります。
さらに、進行した症状に対しては、生物学的製剤による治療が適用される場合もあります。これらの薬剤は、日本皮膚科学会の検討委員会による審査を経て理事会で承認されて使用を許可されます。コセンティクスやトレムフィア、スキリージなど、様々な生物学的製剤が炎症性のサイトカイン(たんぱく質)の動きを抑えることで治療効果を発揮します。
乾癬の生物学的製剤
乾癬は免疫系が関与する皮膚の病気で自己免疫性疾患のひとつと言われています。この疾患は、体の免疫システムが誤って自身の細胞を攻撃する自己免疫反応と関連しており、これには、体の免疫反応の際に細胞間の情報伝達に重要な役割を果たすタンパク質、サイトカインが密接に関わっています。
乾癬の病態においては、特定のサイトカインが過剰に産生されることが問題となります。この過剰なサイトカインの生成が皮膚の炎症や他の症状を引き起こす可能性があります。サイトカインTNF-α、IL-23、IL-17などが特に関与しているとされています。
皮膚において、特定の免疫細胞(TIP-DCという樹状細胞)が活発になり、これらのサイトカインの生成を促進する可能性があります。これらの細胞とサイトカインが相互に作用し合うことで、炎症の進行や皮膚の症状が悪化する可能性があるのです。
近年の研究の進歩により、これらのサイトカインをターゲットとした新しい治療法が開発されてきました。生物学的製剤は、特定の炎症性サイトカインをブロックすることで、乾癬の症状を管理しようとするものです。これらは乾癬治療の新たな選択肢として注目されている進歩した治療法です。
その他の乾癬
乾癬のうち、尋常性乾癬が主で約9割と言われていますが、早期に治療を要する型もあります。
◎膿疱性乾癬(汎発性)
この型の乾癬は非常に重篤な状態であり、全身に赤みと膿疱が現れる特徴があります。症状には発熱も伴い、専門の治療施設での入院治療が必要となる場合が多いです。適切な治療を受けるため、専門病院へ紹介致します。
◎関節症性乾癬
皮膚の症状が軽くても、関節に炎症が起こる可能性があります。これは不可逆の可能性もあるため、早期の診断と適切な全身療法が求められます。関節の状態を評価するため、専門病院へ紹介いたします。
◎滴状乾癬
直径1センチほどの小さな水滴のような皮疹が全身に現れる特徴があります。一般的には溶連菌感染後に発症しやすく、鼻・のど・口腔内などに細菌の感染病巣があり、扁桃炎などを起こした後に生じることがよくあります。特に小児や若者に多く見られます。早期治療が重要であり、感染症の治療によって症状が改善される場合もあります。
それぞれの乾癬の型には特有の症状や治療方法がありますので、専門的な診断と治療が必要です。
日常生活のなかでの注意点
乾癬の管理において日常生活の中で心がけるべき点がいくつかあります。
◎服装の選び方
肌に直接触れる服は、肌に優しい素材のもの、例えば綿などの自然素材を選びましょう。また、締め付けるようなデザインは避け、ゆったりしたデザインのものがおすすめです。
◎入浴方法
清潔さを保つことは大切ですが、皮膚を強くこすって刺激するのは避けるようにしましょう。また、熱すぎるお湯や長時間の入浴は皮膚の乾燥を招きますので、ぬるめのお湯を適度な時間で使用しましょう。入浴後はすぐに保湿クリームなどでしっかりとスキンケアを行いましょう。
◎室内環境
特に乾燥しやすい季節は、皮膚の乾燥に注意が必要です。加湿器の使用を検討すると良いかもしれません。
◎日光浴
適度な日光浴も乾癬の症状改善に寄与する可能性があります。ただし、紫外線には適度にさらされるよう心がけましょう。
乾癬は他人に感染する病気ではありません。
正しい知識と理解が、患者さん自身や周囲の方々にとっても重要です。誤解や偏見に基づく差別やいじめがないよう、適切な情報提供と理解が求められます。